穀物の話
犬にとっての穀類は,肉ほど中心的な栄養分ではありません。それでも,イヌ科動物は,とくに小麦やとうもろこしなどの胚種に豊富に含まれるビタミンEをはじめ大多数のビタミンと、すべての必須ミネラルのほとんどを穀類に依存しているので,ふだんから穀類をとることが大切です。穀類がどれほど素晴らしい価値をもっているか、植物性食餌で育った牛や馬の健康状態を考えてみれば,よく理解できるでしょう。犬に肉だけを与えるような飼い主がいるとしたら,その人の食餌法はまちがっています。また,よく出まわっている精製・漂白された穀類を与えるのもまちがいです。というのは、このような穀類には、食物のもつ力が失われているからです。犬が穀類を必要とする理由は、調和のとれたビタミンとミネラルによる効力を得るためですが、栄養素が残っていない精製・標白された穀類は胃の中でネバネバしたペーストになり、イヌ科動物に多く見られる胃病やくる病などビタミン欠乏症の原因となるだけなのです。 犬が野生だったころ半分消化された穀類をいくらか含んだ食物を食べていたということを、忘れないでください。犬が獲物を殺してまず最初にしたことは、その腹を大きく引き裂き、草食動物である獲物の腸内の穀類や草の半消化物質をむさぼり食うことでした。ですから犬のためにバランスのとれた食餌を考えるときは、獲物の腸内がらとり入れていた種類の食物も考えに入れなければなりません。 犬のためには穀類をいくらか調理する必要があり、いちばんよいのは製粉機にかけたように熱いローラーに通してフレークにすることです(ただ小麦だけは別で、細かい粉に挽いて軽く火を通すのが望ましい方法です)。フレークにした穀類は、冷えた野菜の出し汁か冷たい牛乳やバター・ミルクに,一晩つけておきます。こうして作った「シリアル・フレーク」は,犬や猫のためのいちばん経済的で健康によい穀物です。 昔、イギリスの農場で飼われていたボーダー・コリーは、農場のほかの動物たちと同じように、とうもろこしを食べていました。それはとうもろこしをただ乳漿(チーズを作るときに牛乳の凝固後とれる薄い液)につけただけのものでしたが、健康への効用は目ざましいものがありました。完全に火を通すパンやピスケットと比べると,「シリアル・フレーク」の量は半分で十分なのです。穂軸が若く、乳液を出している著いとうもろこしは、畑からとってきた生のままで犬に与えることができます。粒が大きいときはベジタブル・シュレッダ一で細かくして、少量の植物性油脂と牛乳を混ぜ、塩をひとっまみ加えます。とうもろこしは.収穫後しばらくたったものでも、水をはったたらいに茎を下にして穂軸全体を立てておけば、新鮮なまま保存できます。南スペインでは、全粒小麦粉や全粒とうもろこし粉を火であぶり、冷えた牛乳で半液体状にするか、ぬるま湯とオリーブ油と塩を加えて生のまま食べられるような小さなだんごにします。有名なセピリアやコルドバのグレイハウンドは、この「アリナ・トスターダ」を与えられて見事に育ちます。 オート麦は、イヌ科動物の大切な食物です。鉄分のすぐれた供給源というだけでなく、腸内の老廃物を掃除するからです。スコットランドやその他のイギリスの丘陵地帯の有名なコリー種は、このオート・ミールの「ポリッジ(粥)」で飼育されています。この大たちは、スタミナと寒さや湿気に対する抵抗力があることでよく知られています。まだ人間によりそこなわれていない,数少ない犬種のひとつで,その健康についての記録を見れぱ,ナチュラルでない食餌を何世代にもわたって与え続けられたほとんどの犬種の飼育法が,どれほど誤ったものかがよく理解できます。 大麦は食物としても価値の高いものですが,犬の飼育上たのもしい薬効もあります。制酸性のマグネシウムが豊富で,穀類のなかでいちばんアルカリ性の高いものです。すぐれた血液の洗浄効果をもち,暑い李節には血液の冷却もします。アラブ人は,その立派なアラブ馬とサルキーのための大切な穀物として,この大麦を選んできました。 ライ麦は,加工するのに都合がよい穀類です。その外皮は,歯の良質なエナメル質と丈夫な爪をつくるのに必要なフッ素を含んでいます。炭水化物と脂肪の含有量が少ないので,肥満犬には好ましい穀物です。また,ミニチュア,トーイ種の小さなサイズを適切に保つのにも有用です。 古代文明を繁栄させたレッド・インディアンやメキシコ人に崇められていたとうもろこしは.これだけを食べていても何か月も生命を維持することができる,唯一の素晴らしい穀物です。太陽の光に満ちたとうもろこしは腺の強壮剤で,繁殖力を高め,美しく豊かな毛並と丈天な歯をつくってくれます。コーン油もたいへん栄養価が高く,犬に与えるなら,中型大でティースプーン数杯を穀類に混ぜるとよいでしょう。「とうもろこしの絹上つまり穂軸の外側に絡みついている糸状のものは,すべての腎臓疾患に医薬的な効果があります。火は通さずに細かく切り刻むか,お茶に加工して,中型犬でティースブーン1杯を1日の量として与えます。米,といってももちろん玄米にかぎりますが.これにオリーブやとうもろこしなどの植物性油脂と生卵を加えて犬に与えると,濃厚な風味をとても喜びます。米がもつビタミンB1やニコチン酸は,白米では夫われているので,玄米を用いることが大切です。 冬期は,ほかの穀類は少量しか与えられないため,亜麻仁は責重な穀類です。ミネラルが豊富で,強壮作用があり,オイルは髪や神経を強くします。とても硬い外皮に包まれているので,調理には注意が必要です。24時間たっぶりの水にひたした後,水は捨て,なべのぶちにこげつかないようによくかき混ぜながら,30分ほどゆっくりと大を通します。途中で出てくる液は,無機質の塩分と油脂を含んでいるので捨てずに,王ねぎやじやがいもの皮などといっしょに煮込んで,「スーブ・ストック」のようにして利用できます。

DOGvol.1参照
注意
※一般的なペットフードに「とうもろこし粉」と表記されている場合、上記の説明の「とうもろこし」とは品質や安全性が異なるため当てはまりません

※大豆ミール=未調理の大豆の滓です。